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大切な人たちと一緒に生きていく 飯屋 「ゐ処」がつくる「日常」 

大切な人たちと一緒に生きていく 飯屋 「ゐ処」がつくる「日常」 

 2022.09.22


八ヶ岳の山小屋スタッフ、京都の茅葺き職人、そして小笠原諸島の無人島料理人。

佐原 真理子(さはら まりこ)さんは、旅をするように縁をつくりながら、これまで様々な場所で働いてきた。


そんな彼女は、秋から滋賀県の東近江市で飯屋をはじめる。

お店の名前は「ゐ処(いどころ)」

この春には、パートナーとも入籍し、家族が増えた。


大きな変化を迎えている佐原さんが、いま大切に思うこととは。

(2022.3にリモートにて取材しました)


佐原 真理子(さはら まりこ)

1993年生まれ、東京都練馬区出身。女子美術大学附属高等学校卒/国際自然環境アウトドア専門学校卒、日本仕事百貨メールマガジンにてコラム「山のサハラさん」連載。新卒で八ヶ岳の山小屋に就職し、春〜秋は標高2,600mの山の上、冬は下山し京都で職人さんと茅葺き屋根をふいたり、小笠原で無人島料理人をしたりと様々な場所で仕事をする。現在は滋賀県東近江市に飯屋「ゐ処」開業準備中。





「店をやりたいって前からはっきりと思っていたんです。だけど、どうやったら本当にやりたいことをやるって決められるのか、ずっと模索していました」

八ヶ岳の山小屋のお仕事で、ごはんをつくる喜びに出会った佐原さん。

いつか自分のお店を持ちたいと数年間思っていたが、実際に行動に移すのはむずかしかった。今回、お店をはじめようと決意したのには、どんなきっかけがあったのだろうか。

「自然と大きなきっかけがあったわけじゃないんですよね」

将来お店をやりたいと恋人に話した。すると、滋賀県に住む彼のお父さんが家の近くに古民家があるという情報を教えてくれた。当時長野県で働いていた佐原さんは、滋賀県まで下見に出かけたのだという。

「軽い気持ちで見に行ったんです。その時は結婚の具体的な話もなかったし、滋賀のこともわからないし。でも、実際に物件を見て、『借りる?』って不動産屋さんに聞かれて、『断る理由がないな』って思ったんです」

「ゐ処」 外から見た様子


なぜだろう。お店のことは何にも決めていなかったし、先のこともわからなかった。

だけど『とりあえず』と物件を借りたことで、不思議と色んなことが自然に決まっていった。開店に向けて準備をしていくなかで、遠距離で交際していた恋人と結婚も決まり、二人で暮らしはじめた。

「どうやったらやるって決められるのかを悩んでいたときに、きっと自分の気持ちだけでは決められないんだろうなって、どこかで気づいていたんです。だから、予想が当たったなって。結婚したら、今までみたいにあちこち行きにくくなる。でも、そういう条件やしがらみにくるまれることによって、逆に決められることもあるなって」

しがらみという言葉は、ふつうは邪魔をするものとして使われることが多い。

しかし佐原さんの場合はどうやら少し違うらしい。

「しがらみが嫌いって避けてきたこともあるんです。でも飽きちゃったなあって。自分だけがやりたいって思うことをやったときに、楽しいけど満たされないものがあるって気づいたんです」

絵を描くときも、まっさらな紙に好きに描くより、条件やテーマなど制約がある方が色んなことを膨らませていける。その方が佐原さんは自由に動けるのだという。

「彼は長男で、家も継ぎたいしゆくゆくは滋賀で暮らしたいって希望があった。でもそれだけだったら滋賀を選んでない。彼の家族の人が大切にしたいと思える素敵な人だったし、店の周りで暮らしている人たちも本当に面白い人が多くて。この人たちのそばに居たいって心から思えたんです」


開店準備は着々と進み、お店のオープンは10月1日に決まった。

「ゐ処」はどんな場所になっていくのだろうか。

「おしゃれなだけのお店にしたくないなって。言い方がちょっと難しいんですけど、人の悪口が言える、日常に近いところにしたいんです」

例えば、おしゃれな古民家のカフェに友達とランチを食べに行くとき、お気に入りの洋服を来てわくわくして出かけていく。素敵な空間の中で、穏やかな気持ちで美味しいごはんを食べる。それは、普段の日常とはちょっと違う、非日常の時間なのかもしれない。

「もちろん非日常の時間も好きなんです。でも、つくりたいのは、日常と非日常の間というか、日常に近い空間なんです。でも、日常ばっかりだと、誰かと喧嘩したり、忙しい時間を過ごしてパンクしそうになったりするから、日常に戻っていくために、骨を休める感じの場所にしたくて」

佐原さんは、お店の名前「ゐ処」の辞書の意味を教えてくれる。

①身をおくところ、人がいる場所。②あるべき場所・位置。③人がすわる所。

そして、

④「常駐する場所ではないが、生活の中心として多少の時間・継続的に移住する場所」

「あ、これいいな、これだなって思ったんです。ちょっとおいしいごはんとかお酒飲んで、また日常に戻っていく。悪口を言っても、まあ、いっかと笑い話になる場所にしたいんですよね」

悲しいことや悔しいことがあっても、「ゐ処」に来たら、元気になって帰っていく。

きっと活気のあるにぎやかなお店になるだろう。

「人間味があふれている人が好きなんです。当たり障りのないことを言う人よりも感情を出して話してくれる人の方が面白いなと思う。自分自身もそうなんですけど、怒ったり泣いたりしてびっくりさせちゃうこともある。だから人間味の出るところにしたいなって思っているんです」

「ゐ処」のショップカードと看板。「ゐ処」の文字は、パートナーのつるちゃん作。

最後に、「今一番考えていることはなんでしょう?」とたずねると、少し意外なことを話してくれた。

「不安というか、ちょっと考えていることなんですけど。店を始めるにあたって、彼の家族に全面的に協力してもらっているんです。でも、懐に飛び込んでいききれない部分があって。それは、私の奥底にある一番大きい課題なんです」

新しい家族のみんなは、荷物を運んでくれたり、カウンターを作ってくれたりと、見返りなく協力してくれる。だけど、関係性が近くなり、よくないところを知られてしまうと、嫌われるんじゃないかという不安もあるのだという。

それは家族になっていくということの難しさでもあるのかもしれない。

「まったく知らないところから彼と出会って、家族になるということに、私自身も結構びっくりしているんです。彼のご家族も、どうしてこんなに愛情をかけてくれるんだろうって。素直にそれを受け取ればいいんですけど、怖くなったりして」

過去にも、近くなりすぎる前に距離を作り、疎遠になってしまった人もいた。

「だから、本当に大切なことを考えさせてもらっている」と佐原さんは言う。

「ひとつ思うのは、彼に対しても、家族に対しても、悲しませたくない、この人たちを傷つけたくないなって、そこはすごくはっきり思ってます。そう思わせてくれるくらい、本当に素敵な人たちなんですよ」

不安なこともある。こわいこともある。

それでも、いま大切に思える人たちと一緒に生きていくことを選ぶ。

「店をやると、やりたいことに満ち溢れているみたいだけど、やりたいことって極端に言ったらないのかもしれないって思うんです。でも、こういう風に過ごしていきたいって情景はある。大事な人たちと一緒にいたい。近所に住んでいてよかったって思われる人になりたいんです」

佐原さんが、「ゐ処」をつくることを通して、

見つめているのは「これからどんな日常を生きていきたいか」という情景。

滋賀に訪れた際は、ぜひ足を運んでみてほしい。


(執筆:荒田 詩乃   写真提供:佐原 真理子)

「ゐ処」

@i.dokoro

滋賀県は東近江市

2022年10月1日(土)open

飯屋/注文弁当/図書室/café/古い物/庭


ぼーっとする、はたまた考え事。

一人になりたい、誰かと落ち着いて話がしたい。

様々な日常の中に在る場。

天気や仕入れにより、その時々の賄い飯をつくります。

住所 滋賀県東近江市永源寺相谷町749番地

✉︎ i.dokoro@outlook.jp

TEL 070-3268-3515

昼 11:30〜無くなり次第終了

図書室とcafé    11:30〜17:00(L.O16:00)

休み 月・火曜日(たまに臨時休業有、SNSよりご確認ください)

駐車場有、お支払い現金のみ

カウンター7席+図書室15席程、店主一人のお店です。

大変心苦しいのですが、お子様向けのメニューはご用意がございません。また、5人以上の団体様のご入店はお断りいたします。予めご了承くださいませ。

プレオープン:9月23日(金)〜9月30日(金)時間:11:00〜18:00(L.O17:30)

佐原真理子さんとは、日本仕事百貨の編集ゼミ(2020.2)でお互いに受講生として会い、インタビューをさせてもらいました。その時に執筆したインタビュー記事では、佐原さんの旅する生き方を中心にお話を伺っています。こちらももしよかったらご覧ください。

「旅をしながら根っこをさがす」佐原真理子さん


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