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「解体し継承する」古本屋をつくる杉田すぐるさんが聞いて話す理由 

「解体し継承する」古本屋をつくる杉田すぐるさんが聞いて話す理由 

 2023.05.08

記憶をめぐる営みをたずねる連続インタビュー。

 

第一回は、杉田 賢(すぎた すぐる)さん。

 

古本屋で働きながら、自らの店を持つため準備をしている杉田さん。

彼の考えている古本屋は、本を買い取り、売るだけではありません。

遺品整理を通して本を買い取り、その本にまつわる記憶を聞き、手渡していく。

 

杉田さんの大切な場所である高円寺のコクテイル書房で、いま考えていることについて、お話を伺いました。




杉田 賢(すぎた すぐる)

95年、静岡県生。都内の古書店で働きながら25年の古本屋の開業を目指している。遺品整理・生前整理を担う古本屋を構想しており、今年の8月に第一弾を行う。沖縄の文化に関心を持ち、その土地の風景を絵画に残してきた方の遺品を扱う。古本屋として感じていること、古本屋が考えていること、古本屋はどこがイケているのかを発信するニュースレターを今日始めた。お酒が好きで、よく飲んでいる。好きな場所は高円寺、高知、国立など。



古本屋って一種の解体業なんです

――古本と遺品整理をつなぐ事業って面白いですよね。杉田さんは、どうしてこういう事業を考えはじめたのでしょう?

 

B&Bという下北沢の本屋で「これからの本屋講座」に参加して、そこで「本屋は本を売っていくだけじゃ成り立たなくなっていく」と思ったんです。じゃあ何と掛け合わせようと考えて、最初は古本と古道具の店を構想していたんですけど、別の可能性も探りたいと思った時に、高円寺のコクテイル書房の狩野さんと話して。

 

要するに、古本屋は一種の解体業だと思うんです。本棚全部は売れなくて、1冊という単位に分解しないと売れない。1冊単位に腑分けしていくから解体業。でも、それだけだとつまんないなって。解体される前の本棚の写真を撮りたいって思って、それが遺品整理につながったんです。

 

――「古本屋は解体業」って、たしかにそうかもしれないですね。具体的にはどんな事業内容になるんでしょう?

 

読書体験を聞いて、その人の本棚の蔵書目録をつくりたいんです。一生涯かけて、どういうものを集めてきたか、写真だけじゃわからないので、思い入れのある本について何冊か語ってもらって、記憶を継承していきたい。その読書体験をまとめて、冊子に引き取った本に挟んで売る。古本の前の所有者の物語、なにより僕が読みたいと思うし、ニーズは意外とあるんじゃないかと思うんですよね。


「読書体験」を聞くということ

――知り合いの方を中心に、読書体験を聞きはじめていらっしゃいますね。実際にやってみた手触りはどうですか。

 

京都の大学で博士課程に通いながら、川端康成の研究をしているひとの話を聞いたんです。そのひとが川端を最初に読んだのが、彼女が高校生のときで、そこから十年が経った。愛し続けて十年が経っている。だけど、川端っていう作家を今日において研究する意義と、個人の好きは交錯するらしいんです。でも、話を聞いて書いたことでその人の中で整理ができて、「愛し続けて十年目」という文章を書いてくれて、それが非常によかった。

 

――読書体験を通して、その人が見えてきますね。杉田さん自身の読書体験にはどんなものがありますか?人の読書体験に関心があるってことは、いい読書体験があるんだろうなって気がして。

 

もちろんありますよ。今日、本も持ってきました。僕が本を好きになったのは、辻邦生の「背教者ユリアヌス」を読んだからなんです。大学4年の冬の最後の「文明論」という授業で教授が勧めていて。その時は読まずに、数年後に思い返して読んだんです。ちょうど最初の会社を辞めようとして、人生の寄る辺がない時期で。そのあと中東へ一か月半旅をして。ジョブハンティングの期間が10か月くらいあってしんどかったんですけど、その支えとなった本で、非常に思い入れが深い。


――「背教者ユリアヌス」はどんなあらすじなのでしょうか?

 

ユリアヌスという人物は、キリスト教が公認されたあと、ローマ帝国で皇帝になって、ギリシャ的な信仰を復活させようとした。でも時代の流れはゆるさなくて。そういう運命の中であっても、退廃におちいるんじゃなく、あくまでも生きることを追求した。そういう姿に惹かれて、僕にも重なるのかなって。どんな困難な中でも、最後まで生きることを追求する。なんだか「そう言わないと、生きていけない」みたいなものも感じるんですよ。


――「そう言わないと生きていけない」その言葉は、何かをちょっと背負っているような感じがしますね。

 

ユリアヌスも色んなものを負っているし、僕は最近気楽になったのだけど、もともと義務感は強いほうなので、そういう点ですごく惹かれたんでしょうね。


もっとわがままにふるまおうって思えた

先ほども出てきた、この場所の店主であるコクテイル書房の狩野さん。彼との出会いが、非常に僕を変える出会いだったなって思っていて。もっとわがままにふるまっていいんだ、みたいな。僕は批判意識というか背負っているものが強いんですけど、そんなもの関係ねえな、やりたいとおりにやってみて、うまくいかなければ考え直せばいい。狩野さんと飲んだ次の日、そう感じたんです。

 

――「わがままにふるまおう」って言った時に杉田さんの表情がフッとほころぶ感じがいいですね。

 

そうなんです。わがままにふるまいたい。あとね、僕、お酒すごく好きなんですよ。酒の味はそんなに詳しくないけど、酔いながら人と話している時は非常に大事な時間で。狩野さんとも飲みながら話したんです。で、翌日その時のことを振り返って、あ、そうなんだなってわかってくる。

 

――お酒を飲むと、いろいろな考えがめぐる感じなんでしょうか?

 

なんだろう。飲んでいる時は、思考の次元を落とすというか。考えるじゃなくて、感じるかな?「あ、いま風が吹いたな」とか、器と器がぶつかる音を聞いてみたり。僕は今働いている古本屋の休みの火曜夜にお酒を飲んで人と話して、水曜の朝に走るので、走り終わって気づくと考えていたりもするのです。だから大事なものってそうやって時間をおいてやってくるものだなって。


人と話すことで予期せぬ自分に変化していく

だから僕にとって、話すことも大事なんです。改めて言うまでもないかもしれないけど、話す時に考えてもいるし、話って二度繰り返されることはないかなと思っていて。

 

――話しながら考えたことは、もう繰り返されることはない。この瞬間に消えていく。

 

そうなんです。ちょっと堅苦しいけど、僕はこの瞬間に自分自身を賭して話している感じがあるんです。そうやって人と話す中で自分が変化していく。事業構想もそんなことを考えながら、色んな人に話しているところもあります。

 

――自分を変えていくではなく、人と話していく中で変わっていく。それは「偶然性」を大切にしている感じがしますね。

 

自分で自分を変えていけないとも思うんです。最近好きな言葉があって「窯変(ようへん)」という言葉で、焼き物をつくる時に、ふとした偶然で予期せぬ色になるという意味の言葉なんです。そのためには日々のつくる側の人間の努力が大事で。人と話している時に、目の前の人の今までの積み重ねもないと、僕との間で反応は起きない。話す時は、目の前の人が過去に経験してきたもの、現在、未来のその人と話をしている気分になる。だから、窯変って言葉はとても好きです。

 

引っ越し体験を聞く、ファミリーヒストリーを聞く

本棚の蔵書目録はご高齢の方を想定しているんですけど、広がりを持たせたくて、20代30代の方向けに考えていることもあって。若い人は引っ越しをするじゃないですか。引っ越しは生活の再構築。居場所を移す時に、本棚に何を残すと判断したのか。残したもの、手放したものの記憶を聞いても面白いなと思っているんです。

 

――たしかに本棚にある本っていろんな思い出が詰まっていますね。捨てられない本がけっこうあります。

 

自分の昔に思いを馳せる。サービス名は「トランジション」がいいのかなって。生前整理・遺品整理より若い人に親しみやすいと思うんです。20代の女性が引っ越しでこのサービスを頼んでよかったなって思ってもらって、生前整理遺品整理を知ってもらえば、祖父母の世代に紹介してもらえるなって、そういう循環は考えています。

 

――話したり聞いたりしながら、解体と継承がつながったり循環していくのが、杉田さんの面白いところですよね

 

つながっていますね。解体していくためには、分け入らないといけなくて。そうすると今まで忘れていたものが出てくる。自分の中にある、忘れていたものに対しての思いを語りなおしてもらうことで、その人の人生に光があたって、自分の輪郭がはっきりする。それは、新たな生活をつくることにつながると思うんです。循環という意味では、個人の人生の物語に分け入ると、ファミリーヒストリー的なものも出てくるなとも思っていて。

 

――個人の語りだけではなく、家族の人生の物語にもつながっていく。

 

事業内容とは別なんですけど。整理の時に品物の話を聞いていくと、その人自身の話だけじゃなく、祖父や祖母の思い出とかも出てくる。そういうものを語りなおしてもらうと、家族がその時どうしてそんな風に行動したのかわかってくる。そうすると、自分自身がわかる。それがファミリーヒストリーなのかなって思って。そんなこともやっていきたいと思っています。


自分の見ている世界を表現したい

今後の理想なんですけど、聞いた記憶をまとめる時に、フィクションを混ぜてもいいのかなと思っています。そうすることでその人らしさを表す物語がより伝わるんであれば、とも思うんです。

 

――フィクションが、かえってリアリティを持つこともありますよね。その人の生の声だけがリアルじゃない。

 

自分の感じたものがリアルというか。辻邦生が「ポン・デザール体験」というものをパリでしていて。彼はフランスに8年くらい留学していて、なぜ自分は書かないといけないのかを見出すまでのつらい期間があった。その時にポン・デザールっていう、パリの西南側にかかる橋からセーヌ川を見て『僕が見ているセーヌ川は僕が表現しないと消える。客観的な世界があるわけではなくて、自分が見ている世界があって』ということを言っていて。

 

――僕が見ている世界は表現されないと消えていく。それは杉田さんがこれからやりたい継承にも繋がりますよね。その人が一生かけた本棚は消えてしまうけど、聞くことを通して、杉田さんの聞いた話として表現されて残っていく。

 

そうですね。だから僕は、聞くことを通して、表現をしたいって欲求があるのかもしれません。僕が感じたものを表現して、残してゆきたい。人によって、どう世界が見えているのか。そこはやっぱり癖があると思うんで。そこを知りたい、もっと聞きたい、表現していきたいんですよね。






――最後に、これをかけてもいいですか。僕は迷っている時にいつもみるyoutubeの動画があるんです。映像じゃなくて音楽なんですけど。僕はね、大河ドラマが好きで。今年放送している大河ドラマじゃないですよ。ちょっと前の2012年の大河の平清盛。このオープニングテーマがすごく好きなんです。

(公式のyoutube動画がなかったので、spotifyのリンクでお届けします)


最初は音が小さめで入っていって、だんだん大きくなっていって、力と力のぶつかり合いがあって。最後また小さくなっていく。自分の一生をこういう風にしたいと思うんですよ、この曲みたいに。

 

だから、もっと力を持ちたいというか、もっと破天荒に生きたい、そう思っています。

 

 

(執筆/荒田詩乃、撮影/小松亜希子)






整理と継承 - 古本と古道具の店

杉田さんが構想している事業について詳しくはこちらをぜひご覧ください。

遺品整理・生前整理についてのアンケートも募集しています。

https://seiritokeisho.notion.site/seiritokeisho/0077b9d8a3ec4cff9057e5409d3eda40


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「今夜西荻で飲みませんか」という魅力的なお誘いも定期的に投稿されています。杉田さんと会って話してみたい人はぜひtwitterをのぞいてみてください。

https://twitter.com/nomikaishiyouka

高円寺 コクテイル書房

https://www.koenji-cocktail.info/

【営業時間】昼営業 12:00-15:00 土日 / 夜営業 18:00-23:00 無休

【住所】166-0002 東京都杉並区高円寺北3-8-13 

【電話・ファックス】03-3310-8130

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