なるべく扉をあけておくよ リビングに図書館を作った雪竹ますみさんのお話
2022.12.03
埼玉県富士見市に小さな図書館があります。
その名も、本で人と人がつながる文庫「はんぶんこ」
学校司書でもある雪竹 ますみ(ゆきたけ ますみ)さんが、自宅のリビングを図書館としてときどき開放しています。本棚には「人生で一番の本を寄贈してください」という呼びかけに共感し、預けられた本がずらりと並んでいます。
「おじゃまします」とおうちの扉を開けると「つくってみたんだ。よかったら食べて」と、手作りのシフォンケーキと珈琲を淹れてくれました。
美味しいケーキと珈琲をいただきながら、ますみさんが考えていることをうかがってみます。

雪竹 ますみ(ゆきたけ ますみ)
1977年生まれ。千葉県千葉市出身。大正大学人間福祉学科生涯教育専攻卒。司書・社会教育主事。玩具メーカー・テーマパーク・珈琲のキッチンカーなど、様々な職種を経験。現在は、学校司書として勤務の傍ら、図書館や公民館のイベント企画・出演、市民大学講師、幼児・小学生や保護者対象の絵本WSなども行う。「本は全ての世界の扉」をモットーに、多様なジャンルのアーティスト・異業種との共働も。本で人と人がつながる文庫「はんぶんこ」主催。絵本専門士取得中。
本に囲まれた空間が好きだから、自分でつくってしまおう
――本やCDがいっぱいある素敵なリビングですね。どうしてお家で図書館をはじめようと思ったんでしょうか。

小さな頃から、本にかこまれた静かな空間が好きだったんですよね。子どもの頃に家の近くにあった図書館は小さくて本にぎゅうって囲まれている感じのところで、おしゃれな空間ではないんだけど、大好きだった。
図書館に行って本を借りるときも、全部の棚を見てまわったんです。小学生だから、大人の棚にある本はわからないのに、背表紙を眺めて、「あの本は面白そうだな、あの本は怖そうだな」と予想してみたりして。そうやって眺めてると、次に図書館にきたときに、棚にあった本がなくなってることに気づく。「ないってことは誰かが読んでるんだ。いつ返すんだろう」とか想像してたんです。
――なかなかツウな楽しみ方ですよね。本を借りるだけじゃなく、図書館という場を子どもの頃からめいっぱい楽しんでいた。
そう。大好きだったから。だから、「いつか図書館に住みたい」とずーっと思ってたんです。今でも、知り合いの図書館の館長に「何かやりたいことある?」と聞かれたら「図書館に泊まりたいんです」って言ってます。図書館にぬいぐるみがお泊りする企画は、取り組んでいる図書館が全国にあるんだけど、そうじゃなくて私が泊まりたいの!って。本が上から下までびっちり入っている書庫と書庫の間に寝て本を読みたい。
とにかく図書館に寝泊まりしたい、住みたいって願望があるので、本に囲まれた空間を自分でつくるって発想になったんです。泊めてくれないなら自分で作ってしまえと。

「はんぶんこ」の棚を撮影しようとしたら「本のタイトルがなるべくわからないように撮ってね」とお願いがありました。どんな本があるのかは「はんぶんこ」に訪れた人だけのお楽しみです。
「つらい」とか「逃げたい」って思ったら、昼寝をしにおいでよ
――本に囲まれた空間って、本屋とかブックカフェとか色々ありますよね。でも、あえて図書館をつくろうって思ったのはなんででしょう?

図書館が大好きってこともあるけれど、困ったときに何も持ってなくても「ただ、いてもいい場所」にしたかったんですよね。図書館って誰でも受け入れられる公共施設だから。私、金銭的に苦しい一時期があったんです。それって人になかなか言いづらいときもあったし、そんなときにお金をとる場所ってちょっと行きづらい。でも、図書館だったらタダじゃないですか。
「つらい」とか「逃げたい」って思ったときに入ってこられる場所でありたい。今は家のリビングだから、もちろん日にちや時間が限られているんだけど、将来的にはずっと開放する場にしたいとも思っていて。「本を見に来たの」って言うだけで「どうぞいていいですよ」っていう状態にしたかったんです。
――本を借りに来るだけじゃなく「ただ、いても良い」場所にしたかったんですね。
本があるとしゃべらないでも許される空間になる。本を開いているとあまり話しかけないですよね。だから、ふらっときてただここにいて、本を開いて、ぼーっとしてていい。話を聞いてほしければ話を聞くし、話してほしければなんでも話すよ。今日みたいにラッキーなときはお菓子があるかもしれないし。珈琲も淹れられるときは淹れる。
最終的には「みんな、昼寝しに来てくれていいよ」って思ってるんです。以前、家に遊びに来てくれた人が、昼過ぎに来て、昼寝して「これから仕事だから」って夕方に帰っていった。ほとんどしゃべってない。でも私もそれがすごく心地がよくて。
――「昼寝をしに来てもいいよ」っていう場所はなかなかないですよね。
その方が私もストレスがないんですよね。本に囲まれている状態で、私はずっと本を読んでいて、人が来たらお茶でも出して、その人が帰りたいときに帰るのが理想。理想のおばあちゃん像が昔からあって、お茶を飲んだり編み物したり、それでいて安楽椅子探偵的な。そこに向かって色んなことを積み重ねている感じなんですよね。
私はイベントにも出たりするから、外に出ていく活動的な人間と見られがちなんですけど、本当は家にいたい。あっちこっちに呼ばれて行くのは本当に楽しいけど、イベントとか緊張するときもある。みんなが来てくれたら楽しいから、ドアを開けておきたいって気持ちなんです。

珈琲を淹れてくれるますみさん。うしろには愛用のエスプレッソマシン。実はますみさんは、バリスタとして働いていた経験もあるんです。
無理をせずに、なるべくその時々の理想の形をつくっていく
――自宅を開くのって、ご家族がいるとなかなか難しかったりもしますよね。

うちの家族がどう思っているかはわからないな。ちょっと嫌って思っているかもしれない(笑)家族がいるから、普段は平日しか開けられない。最終的には全開放して出入りできる状態にできたらいいなとは思っているんですけど。いろいろ形はどうなるかわからないけど、いま私にはここしかないので、ここから、って感じかな。
――いまの状況で、この場所でできることをやっているってことなんでしょうか。
将来的にはどうなるかわからないじゃないですか。子どもたちも出ていく可能性も全然ある。その時々に応じて、できる形でやっていけばいいかなと。こういう人間だっていうのをもっと家族にわかってもらえれば、協力してもらえることもあるだろうし。
――「はんぶんこ」がオープンしたのは2019年12月。新型コロナウイルスの感染がひろがって、外出がしづらくなったり、社会がこれからどうなるかわからない状況が続きましたね。
オープンして数か月後にはコロナ禍だったから、初日だけイベントをして、その後は開店休業。こんな時に人を呼ぶのはどうなんだろうと思ったので、一年近くやってなかったんです。その後「この日は開けられるから来るときは一週間前に連絡してね」ってあんまり準備をせず肩ひじ張らずにできる形を少しずつはじめました。そうすると私自身がそんなにストレスなくできることがわかって。
――コロナ禍でも、無理なくできる形を見つけていったんですね。
色々なことがどうなるかわからない。だからそのときの理想の形をやっていけばいいかなって。金銭的なこともあるし、色んなことをしたい願望もあるし、そこに行くためにどうしたらいいかと考えたら、無理ができないってよくわかったんですよね。自分が開けられるときにまずは開ける。できる限りのなかでやれることはやりたい。でも、なにもない時はただそのままで。そんな気持ちなんです。
わからないことを理解したいから、扉を開けておく

この間友達と話してたときに気づいたのだけど、私はわからないものが怖いんですよね。最初、コロナが全然わからなくて、ただ感染が広がっているときはすごく怖かった。でも、自分なりに理解しようと思って色々なことを調べて、みんながどんなふうに動いているのかわかると安心した。
コロナだけじゃなくて、理解ができないことはありますよね。この人なんでこんなこと考えているんだろうとか。例えばイライラしている人がいたら、そういうときは「なんで?どうして怒っているの?」と本人に聞くんです。そうして、返ってきた考えが自分とは相容れないものでも、そう考えているんだ、とわかると、腑に落ちて落ち着く気がします。
――とにかく「わからない」だけだと怖いけど、納得できると安心できるってことでしょうか。
そう。だから、私は喧嘩したときに「もういいよ」って言われるのが嫌なんですよね。子供の頃、母親と喧嘩したときに「もういい、あなたとは話にならない」と言われると、そこから私が怒りマックスになってた。悪い点があったら反省したいし、違う意見の人がいたら、理解したうえで違うねってことを納得したい。その状態ができないことが不安なんだと思います。ああ、子どもの頃の私は、そんなに考えてなかったけど(笑)
――わからないことを理解したいって気持ちは、本を読むこととも繋がっているような感じがします。
そうそう、本を読むのと一緒。私は自分の中でイメージを具現化するのは上手なんだと思うんですよね。ファンタジーの世界や歴史小説だけじゃなく、哲学書とかエッセイとかも本人に話を聞いているような気分になって読んじゃう。人と話していても、話を聞いて、自分の中でなにか形をつくっているんだと思う。
だから「もういいよ」って言われちゃうと、それ以上自分の中でつくれないから、不安になっちゃうのかな。物語を途中で止められちゃった、どうなるのこれ?打ち切りですか?みたいな感じ。私は心の扉を開けているんだから、理解させてよってエゴもあると思う。でもやっぱり、わかりたい、扉を開けておきたいって思いはあるんです。
――わからないことを理解しに出かけて行くんじゃなくて、「扉を開けておく」っていう、ますみさんの姿勢は、面白いですよね。
やっぱり私の中身はあんまり出かけない人なんですよ。旅行に行くのは好きだけど、人から旅の話を聞かせてもらうのも楽しい。こんなことしてきたんだよってみんなが教えてくれれば、それだけでも私の糧になる。外に出ていくよりもここにいるから来てって人なんだとは思います。だから、こういう場所をつくったこともあるのかな。

本は寄贈者の名前付きで貸出しされます。そこには、「本を通じて人と人のつながりも生まれるといいな」というますみさんの願いが込められています。私も本を一冊寄贈させてもらいました。
「ずっとそこにある」って存在感を大切にしていけたらいい
――「なるべく扉を開けておきたい」っていう、ますみさんの人生観が「はんぶんこ」の運営のあり方にあらわれていますね。
とにかく扉を開けておくから、来たい人は来ればいいんじゃないみたいな。そのくらいの気持ちで開けているんですよね。基本的にはオープン。だから、つくりたいのは公共施設なんだなって思うときがある。
――「公共施設」は、ますみさんにとって、どういう場所を意味しているんでしょうか。
ずっとそこにある安心感、かな。コロナ禍で好きなお店が閉店してしまうことがあったけど、お店は残念ながらつぶれてしまうときもある。でも公共施設は基本的にはつぶれない。その状態が理想なんです。「あるよ」っていう存在感。
遠いところから本を送ってくれる人がいるんですけど、なかなか来られないと思うんです。コロナじゃなくたって、普通の家に飛行機で飛んで電車乗ってくる人はいない。けれど、あそこに本を送った、私の好きな本がそこにある。誰か借りてくれるかもしれないなって思うだけでも全然よくて。あるってことが大事。
1か月に1回しか開けられないかもしれない、どうなるかわからない、形は変えていくかもしれない。でも、私が死ぬまでは続けたい。遠くから本を寄贈いただいた人には言ったりするんですけど、私が返せるものは「ここにある」ってことだけなんですけどいいですかって。将来的に色んなものはわからない。けど、ここは言い切らなきゃいけないって思っているんです。「ここにある」ってね。
――ずっと「ここにある」。そんな存在感を大切にしていきたいんですね。
そうそう。だからそういう存在の空間にしたいだけで、私は空間の一部ぐらいの感じ。私に会いにきてっていうのではないんですよね。自分の存在が前に出てくるのはなんか違う気がしていて。私自身は、最終的にはいてもいなくてもいい「空気みたいな存在」になりたい。
あっ、でもそのたとえは違うかな。「空気みたいな存在」って偉大過ぎるかもしれない。空気ないと死んじゃうからね。あーちょっと冷や汗出て来ちゃった。だめじゃん、偉そうじゃん。お前ナンボのもんじゃって思われちゃうよ。ダメダメ。間違えた。このたとえはしばらく宿題です(笑)

*
自分の場所を自分でつくっていくことってすごいことだな。
そんなことを思いながら、ますみさんのお話を聞いていました。
やってみたいと思うことがあっても、日々の暮らしが忙しかったり、子育てをしていて自由に動けなかったりして、理想は叶わないとあきらめてしまうこともあるかもしれません。
自分が生きているこの場所から、できる形で小さく場を開いていくことからはじめることっていいな。
大切にしたいことを問いながら、その時々の理想の形をつづけていけばいいのだな。
本当にやりたいことなら、焦らずゆっくりやっていけばいいのだな。
そんな勇気をもらった気持ちでいます。
そして、「はんぶんこ」のように、大事にしたいことを問いながら開く場があるまちって、きっと良いまちなんじゃないかな。
つくりたいのは「公共施設」だと話していたますみさんの言葉も思い返しながら、そう感じています。
ぜひ「はんぶんこ」で、ますみさんがかたちづくる空気を味わってみてください。
本の寄贈も、いつでも受け付けています。
(執筆/荒田詩乃、撮影/小松亜希子)
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「はんぶんこ」本で人と人がつながる文庫(私設図書館)
本で人と人がつながる
あなたの選んだその本を、誰かが読むことにより、素敵なストーリーが共有されていきます。そして、誰かとつながっていきます。
「はんぶんこ」は、あなたの一番の本をご寄贈いただき、寄贈者のお名前を付けて会員に貸出をする文庫(私設図書館)です。会員は、ご寄贈をいただいた方みなさんです。
ブックカード方式での貸出をするため、寄贈した本を読んでくれた人、同じ本を読んでいる人が見えてきます。
本を通じて、誰かに出会えるかもしれない図書館です。
https://hanbunco.jimdosite.com/
https://twitter.com/hanbuncolibrary
開館日は、不定期のため、twitterにてお知らせしています。
ご自宅でもあるため、詳しい住所は非公開です。
駅から少し遠いところにあります。
タイミングがあえば「はんぶんこ」の最寄り駅(東武東上線みずほ台駅・JR武蔵野線北朝霞駅など)まで、ますみさんがお迎えにきてくれることもあります。
それも、「できるときはできる、できないときはできない」で。
「気になるな、行ってみたいな」と思った方は、HPやtwitterから、
まずはますみさんにコンタクトをとってみてください。